カプコン代表取締役社長にして、2023年より一般社団法人コンピュータエンターテインメント(CESA)会長も務める辻本春弘氏。新型コロナウイルスによる制限も緩和され、本格的にゲーム産業振興のための活動を推進し始めたCESAの展望および、日本のゲーム業界の現状・未来についての考えを語っていただいた。

CESA会長・辻本春弘氏が語るゲーム産業の展望。「業界を先導するゲームネイティブ世代の台頭に期待」

辻本春弘氏(つじもとはるひろ)

1987年、大学卒業と同時にカプコンに入社。1997年に取締役に就任し、以後は家庭用ゲームソフト事業の強化に注力。2007年7月に代表取締役社長 最高執行責任者(COO)に就任。2023年5月より一般社団法人コンピュータエンターテインメント(CESA)会長に就任し、業界の話題になった。

※“辻”の字は、1点しんにょうです。

一般社団法人コンピュータエンターテインメント(CESA)とは?

 CESAは1995年11月、コンピュータエンターテインメント産業の発展・振興を目的に、テレビゲームソフトメーカー16社が参加する形で設立。CEDECや東京ゲームショウを主催するほか、日本ゲーム大賞の開催、コンピューターゲームに関するさまざまな調査、CESAゲーム白書の発行など、その活動は多岐にわたる。ちなみに東京ゲームショウは早くも来年度の開催を発表。多方面から注目されている。

CESA会長・辻本春弘氏が語るゲーム産業の展望。「業界を先導するゲームネイティブ世代の台頭に期待」

ゲーム業界の魅力&将来性を大々的に発信

――まずはゲーム業界におけるCESAの役割について教えてください。

辻本CESAはゲーム産業振興のために結成された協会ですが、業界発展のために会員社の協力を得て、それを実現させていくことが大きな役割となります。技術発展のために開発者の技術を共有して高め合えるCEDEC(※)や、ゲームビジネスを広くPRするためのTGS(東京ゲームショウ)といった大型イベント、そしてゲーム業界のさまざまな課題を解決するための各委員会を設置し、日々、産業振興に貢献できるよう事業を推進しています。

※CEDEC(Computer Entertainment Developers Conference)。日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス。

――CESAの会長に就任され、今後、どのような展開を検討されているですか?

辻本もともと理事として関わってきましたが、ここ数年はコロナ禍の影響もあり、大々的な活動ができずにいました。ですが今後はようやくさまざまな制限も緩和された……ということもあり、日本のゲーム産業におけるあらゆる情報を、国内外に向けて積極的に発信していきたく考えております。日本の産業構造が大きく変化していくなかで、ゲーム業界は着実に成長し続けており、知的産業における人材の採用と育成にも積極的に取り組んでまいりました。

 さらに海外での売り上げも順調に数字を伸ばしており、政府が掲げる“基本給を上げる”という施策にも、ゲーム業界はいち早く対応できています。こういった事実を個社レベルではなく、業界全体として発信していき、日本のゲーム産業のすばらしさや将来性を全世界にアピールすることが、現時点での目標になります。

――会長就任後、初となるTGS2023が9月に開催されましたが、どういった心構えで臨まれたのでしょう?

辻本制限が緩和され、4年ぶりに大々的な開催が可能になりましたが、「どんな反応があるか?」という不安はつねにありました。結果的に出展社数は過去最大、小間数も過去最多という形での開催となりました。

 あとは一般公開日にどれだけのお客様が足を運んでくださるかが最大の懸念点でしたが、蓋を開けたところ、24万3238人もの方にお越しいただけました。コロナ禍前と同等の活気に満ちたイベントとなり、胸を撫でおろしています。

――一般公開日だけでなく、ビジネスデイも盛り上がっていましたね。

辻本ビジネスデイはとくに、海外プレスの方も大勢いらっしゃっていたように思います。国内外のさまざまなメディアで取り扱っていただけて、たいへんありがたいです。

――プロモーションの面では、このたびのTGSはインフルエンサーの存在が大きかったように思います。

辻本そうですね。今回はクリエイターラウンジを用意して、著名なYouTuberの方々にお越しいただきました。なかにはSNSフォロワー数が1000万人以上の方もいらして、そういった方たちが「TGSならぜひ参加したい!」と、ほかの超大型イベントを断ってまで来日してくださったのはありがたかったですね。

 そうして会場で見聞きした情報を発信してもらうことで、グローバルベースにゲームの魅力が広がっていって。それらを通してTGSに興味を持たれた人が、来年は会場まで遊びに来てくれる……という流れができることに期待しています。

TGSを通して見えてきた“ゲーム産業のいま”

――ほかにも4年前と比べて、変化を感じるところはありましたか?

辻本実際に会場を回らせていただきましたが、2019年と比べて、PCゲームのコーナーがかなり賑わっている印象でした。4年前は家庭用ゲーム機や、そちらに対応したソフトのコーナーに人気が集中していましたが、今年はPCゲームのコーナーも試遊台は埋まっていました。

 さらに、PC周辺機器を取り扱っているブースにも大勢のお客様がいらしていて、出展者に対していろいろと質問をされている姿が各所で見られました。そのほかでは、インディーゲームを取り扱うコーナーも連日盛り上がっていて、この数年でPCゲームやインディーゲームに対する注目度が飛躍的に高まっていることを直に確認できたのは大きな収穫でした。

――昨今では家庭用ゲーム機にとどまらず、PCやモバイル、タブレットなど、ゲームを遊べる環境はどんどん変わってきています。今年のTGSは、そうした現状を改めて認識できる内容だったように思います。

辻本もともとTGSでは、マルチプラットフォーム戦略とグローバル展開というふたつのポイントを押し出して、ゲームの魅力を訴求していく方針でした。これを地道に遂行し続けてきたのですが、ようやく定着してきたのかなという感覚です。ゲームファンの皆様が自分の好みに合わせたり、生活環境に適したデバイスを選択して、ゲームを自由に遊べる時代になった……ということを、改めて感じることができました。

――それともう1点、今回のTGSではeスポーツ関連のステージ企画も多数行われ、盛り上がっていましたが、こちらに対するご意見もおうかがいしたいです。

辻本イベントとしてのeスポーツから、さらに今回のTGSは進化したeスポーツコーナーとして展開し、各タイトルや周辺機器、配信など幅広く活況でありました。また、一般公開日に“Crazy Racoon Cup”(CRカップ)というステージイベントも実施しました。こちらはかなり盛り上がりましたね。有料イベントで18時以降での開催でしたが、そういった条件にも関わらず、大勢のお客様がお越しになられて、最後まで大会を楽しんでくださいました。改めて国内でも、eスポーツが浸透してきていることを実感しました。

――来年以降もeスポーツには力を入れていくお考えですか?

辻本各自治体や企業様にもeスポーツに興味を持っていただけたので、この流れは来年へとつなげていきたいですね。今年はアジア競技大会でも、eスポーツが正式競技として取り上げられているので、今後ますます注目度が高くなると見て間違いないでしょう。

――さまざまな気づきがある一方、改善するべきポイントなどもあったのでしょうか?

辻本ひとつ残念だった点としましては、ビジネスデイ初日は館内の空調を最大限の冷房出力にしても冷えず、場内が暑いままとなり、出展社や来場者の皆様にたいへんなご迷惑をおかけしてしまいました。この場を借りてお詫びいたします。来年はまた9月の開催となりますが、今回の反省を活かして万全の状態で実施できるように、事前準備を徹底する所存です。

幅広い層の関心を引くゲーム白書を作成

――先ほど、CESA会長としての展望をうかがいましたが、具体的にどのようなことを実践していくのでしょう?

辻本先ほどもお話しましたが、ゲーム業界におけるあらゆる情報を、国内外に向けて広く発信できるように、CESAのありかたを一新したいと考えています。

 そのための第一歩として、まずは日本のゲーム産業の実態を詳しくまとめた報告書を作ることに注力します。現時点ではそういった、協会会員にとっても使いやすく、外部の方がご覧になられても理解しやすい資料がないんです。もちろんCESAとしても、ファミ通さんのほうでも、各種データをまとめたゲーム白書は毎年発表していますが、ゲーム業界に精通していないとわかりにくい内容になっているのが現状です。

――CESAの会員であっても、読んで理解するには時間がかかってしまうと。

辻本たとえばですが、2022年度の日本のゲーム産業について、全体的な産業規模はどれほどで、海外での構成比率はどれくらいだったのか? ほかにも、家庭用ゲーム機とPCゲームの売り上げの比率や、eスポーツ人口の増加率、海外における日本製ゲームの立ち位置、業界全体の雇用人数の増減など、ゲーム産業に携わる者として知っておくべき情報をしっかり精査してまとめ上げたい。取り急ぎ、こちらの作成に取り組む予定です。

――わかりやすい資料を作ることで、異なる分野の人々や企業にも、より深くゲーム産業に興味を持ってもらえそうですね。

辻本我々が言うのも何ですが、TGSは世界的に見てもかなり盛り上がり、多くのお客様に注目していただけたイベントだと思います。

 ゲーム業界はいままさに、世の中から認めてもらえる絶好のタイミングでもあるので、政府にもより強くアピールして、ゲーム産業の可能性をさらに広げていきたい……というのが私の考えになります。これまでは個社で情報発信をするのが主流でしたが、今後はそうした情報を集約して、日本のゲーム産のすばらしさ、成長の軌跡、可能性などを、皆さんに向けてわかりやすく明示していきたいと考えています。

これからの業界を担うゲームネイティブ世代に期待

――気の早い話ではありますが、来年の‟東京ゲームショウ2024”に向けての展望をお聞かせください。

辻本詳細を詰めていくのはまだまだこれからですが、各企業様からは「来年も出展したい」という要望をたくさんいただいております。とはいえ、スペースには限りがあるので、いかに効率よくブースを展開し、企業様と来場者様それぞれのご要望に対応させていただくかが、目下の課題であると認識しています。

――貴重なお話、ありがとうございます。それでは最後にファミ通読者に向けて、ひと言お願いします。

辻本ファミ通読者の皆さんやTGSにお越しいただいた皆さんは、ゲームファンの方だと思います。そうやってゲーム業界を応援していただけるのはもちろんありがたいことですし、若い世代の方にはさらに興味を持っていただき、ぜひ、ゲーム業界に足を踏み入れていただけるとうれしいです。

 日本のゲーム産業はコロナ禍のあいだも着実に成長し、いまも進化し続けている状況にあります。さまざまなデバイスや技術が参入し、毎日のように新しいビジネスが誕生しているこの状況は、言い換えれば、“いたるところにチャンスが転がっている”ことになります。ゲーム業界に興味があり、自分もゲーム開発に携わりたいという気持ちがある方たちに対してサポートができるよう、そうした道しるべを提示することこそ、CESAが本腰を入れて取り組むべき活動だと考えています。

――TGSの初回開催は1996年なので、そういう意味では“生まれたときからTGSがすでにある”世代のクリエイターが、これからどんどんゲーム業界に参入していますね。そう考えると感慨深いものがあります。

辻本我々の世代が子どものころは「ゲームで遊ぶことは“悪”」と言われ、なかなか世の中に認めてもらえませんでしたが、いまやゲーム産業は日本の経済を引っ張り、先導していくほどの位置にあります。ぜひそうしたゲームネイティブな世代の方にどんどん参入していただき、若い感性と発想で業界をさらに発展させてほしいですね。