ゲームタイトルからして「番組を知らないと楽しめないゲームなんでしょ?」と考える人も多いのではないだろうか。結論から言うと、有野課長(よゐこの有野晋哉さん)の登場頻度は多いけれど、収録されているゲームでの番組的要素は意外なほどに少ない。

 むしろこのゲームを遊んで感じたのは、“本作の開発者は当時作れなかったファミコン、スーパーファミコン時代のゲーム開発への情念を、この番組企画を利用して実現しているのではないだろうか”という、野望にも似た熱意だった。そう。このゲームは、番組企画モノの皮をかぶりつつ、じつはファミコンからのゲームの進化を擬似的に体験させるという、挑戦とも実験とも言える画期的なゲームなのである。

【ゲームセンターCX 有野の挑戦状 1+2 REPLAY】発売日告知トレーラー

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 2024年2月22日に発売を迎えた、Nintendo Switch用ソフト『ゲームセンターCX 有野の挑戦状 1+2 REPLAY』は、1980~90年代のゲームをオマージュした、さまざまなレトロ風ゲームが遊べる『ゲームセンターCX 有野の挑戦状』(2007年にニンテンドーDSで発売)と、『ゲームセンターCX 有野の挑戦状2』(2009年にニンテンドーDSで発売)をひとつのソフトにして、新しい要素も追加してHD画質にリマスターしたソフト。

 ニンテンドーDSで発売された当時は、企画の元になった番組のファンのみならず、多くのユーザーから「懐かしい」、「ひとつひとつのゲームが楽しい」と、好評を得たタイトルだった。

 そんな同作が、“原作”とも言えるゲームバラエティー番組『ゲームセンターCX』の20周年を迎えたタイミングで、Nintendo Switchにてリマスター化されたというわけだ。リマスターに合わせて、2画面だった画面構成を1画面にしたり、オンラインランキングに対応したりといった変更が行われたほか、新作のレトロ風ゲームも追加されている(新作の詳細は後述)。

Switch『ゲームセンターCX 有野の挑戦状 1+2』レビュー。番組企画モノに隠れた1980~90年代のゲームの進化を追体験させる意欲作であり、恐ろしいほどのこだわりが味わえる

 前述の通り、遊んだ人からは非常に評判がいいものの、『ゲームセンターCX』という番組を知らない人は興味を持ちづらいのも事実だろう。しかし、冒頭に書いたように本作は番組を知らないと楽しめない要素は少なく、むしろ、レトロゲーム(クラシックゲーム)の知識があったほうが楽しめるというものだったりする。

 今回は、そんな『ゲームセンターCX 有野の挑戦状 1+2 REPLAY』をプレイしたレビューをお届けする。とくに大きなネタバレはないが、新作の詳細を含め、一切知らない状態で遊びたいという人はご注意いただきたい。

ゲームの中で味わう1980~90年代のゲーム進化の変遷

 本作は、1980年代の世界に飛ばされたプレイヤーが、ゲーム魔王アリーノーからつぎつぎと出題される挑戦状をクリアーしていくというもの。

Switch『ゲームセンターCX 有野の挑戦状 1+2』レビュー。番組企画モノに隠れた1980~90年代のゲームの進化を追体験させる意欲作であり、恐ろしいほどのこだわりが味わえる

 アリーノーからの挑戦状は、「敵を倒せ」、「10000点を獲得しろ」といった簡単なものから、なかには「エンディングを見ろ」といったものまであり、それらの挑戦をクリアーすることで時代が進み新たなゲームが遊べるようになっていく。

 登場するゲームは、アクションやシューティング、レースゲームにRPG、アドベンチャーなど、多種多様なジャンルで構成された約20本。グラフィックやサウンド、ゲーム内のキャラクターの動きなどは、1980~90年代のファミコンやスーパーファミコンにあったゲームを彷彿させるものが多く、当時を知る人には「あのゲームのイメージかな」と懐かしくなるはず。

Switch『ゲームセンターCX 有野の挑戦状 1+2』レビュー。番組企画モノに隠れた1980~90年代のゲームの進化を追体験させる意欲作であり、恐ろしいほどのこだわりが味わえる
Switch『ゲームセンターCX 有野の挑戦状 1+2』レビュー。番組企画モノに隠れた1980~90年代のゲームの進化を追体験させる意欲作であり、恐ろしいほどのこだわりが味わえる
Switch『ゲームセンターCX 有野の挑戦状 1+2』レビュー。番組企画モノに隠れた1980~90年代のゲームの進化を追体験させる意欲作であり、恐ろしいほどのこだわりが味わえる
Switch『ゲームセンターCX 有野の挑戦状 1+2』レビュー。番組企画モノに隠れた1980~90年代のゲームの進化を追体験させる意欲作であり、恐ろしいほどのこだわりが味わえる

 トータルで約20本収録されている時点でボリュームたっぷりなのだが、本作に収録されている各ゲームは、どれも作り込みが尋常ではない。それぞれのゲームがファミコンやスーパーファミコンの時代に流行したもののオマージュ的な内容でありながら、新たに追加した独自のゲームシステムによる爽快感なども足しており、オリジナルのゲームと言えるレベルに昇華させているのだ。しかも、それぞれに裏技や隠しコマンド、隠しキャラなどがあり、すべてのゲームがエンディングまで用意されているという充実っぷり(隠しコマンドなどは、ゲーム内に登場するゲーム雑誌などに隠されている)。

Switch『ゲームセンターCX 有野の挑戦状 1+2』レビュー。番組企画モノに隠れた1980~90年代のゲームの進化を追体験させる意欲作であり、恐ろしいほどのこだわりが味わえる
ゲーム内に登場するゲーム雑誌の表紙。

 しかも、年代が進むにつれて、各ジャンルのゲームが進化していくのもおもしろい。ファミコン時代のゲームの続編が出るたびにステージが広がり、グラフィックがキレイになっていったように、本作に収録されている『からくり忍者ハグルマン』を例にすれば、第1作は左右にスクロールするステージクリアー型だったのに対し、続編の『2』ではステージが広がって縦スクロールが追加。さらなる続編の『3』では、ゴールを目指すプラットフォームアクションに大幅進化し、さらに主人公たちの頭身が上がってイベントシーンまで挿入されるようになっている。

Switch『ゲームセンターCX 有野の挑戦状 1+2』レビュー。番組企画モノに隠れた1980~90年代のゲームの進化を追体験させる意欲作であり、恐ろしいほどのこだわりが味わえる
『からくり忍者ハグルマン』
Switch『ゲームセンターCX 有野の挑戦状 1+2』レビュー。番組企画モノに隠れた1980~90年代のゲームの進化を追体験させる意欲作であり、恐ろしいほどのこだわりが味わえる
『からくり忍者ハグルマン2』
Switch『ゲームセンターCX 有野の挑戦状 1+2』レビュー。番組企画モノに隠れた1980~90年代のゲームの進化を追体験させる意欲作であり、恐ろしいほどのこだわりが味わえる
『からくり忍者ハグルマン3』

 これはまさにファミコン、スーパーファミコンの時代にあったゲームの進化を追体験できるもので、当時を知るプレイヤーにとっては「あったあった!」と共感が味わえ、当時を知らないプレイヤーにとっては、昨今のSteamなどで出ている当時のオマージュゲームをつぎつぎと遊べる場のように感じられるはずだ。

 しかも、本作の開発スタッフは本当にこだわりが強く、特定のイベントを入れ込んだキャンペーン版のゲームが登場したり、同じゲームでも別機種板が登場したり(グラフィックの色数もサウンドも違う)と、その細部までのこだわりを説明していると時間がなくなるレベルなので、それはぜひ体験して感じてみてほしい。

見た目は昭和。中身は令和のベルトスクロール新作

 と、ここまで書いてきたのはニンテンドーDS版でも同じこと。Nintendo Switchのリマスター版には、前述の通り、新作のレトロ風ゲーム『炎の格闘サラリーマン ヤッタロー』が追加されている。

Switch『ゲームセンターCX 有野の挑戦状 1+2』レビュー。番組企画モノに隠れた1980~90年代のゲームの進化を追体験させる意欲作であり、恐ろしいほどのこだわりが味わえる

 新作なのにレトロ風ゲームとは何なんだ、と言いたくなるところだが、動画や画面を見てもらえればわかる通り、ファミコン時代にあったベルトスクロールアクションゲームをモチーフにした新作になっている。

【完全新作】炎の格闘サラリーマン ヤッタロー PV《有野の挑戦状 1+2 REPLAY収録》

 本作は操作方法などが現代のゲームにしてはちょっと特殊で、たとえばダッシュをするときは方向キーを同じ方向に2回入力(→→)することになる。これだけでピンと来た人もいるだろう。それ以外にも、商店街の買い物で体力の回復&特殊技の学習ができ、必殺技を使うと体力が減ったりと、知っている人にはニヤリとするオマージュがたっぷり。

Switch『ゲームセンターCX 有野の挑戦状 1+2』レビュー。番組企画モノに隠れた1980~90年代のゲームの進化を追体験させる意欲作であり、恐ろしいほどのこだわりが味わえる
Switch『ゲームセンターCX 有野の挑戦状 1+2』レビュー。番組企画モノに隠れた1980~90年代のゲームの進化を追体験させる意欲作であり、恐ろしいほどのこだわりが味わえる

 個人的には、「じゃあジャンプはABボタン同時押しですか!」と思っていたのだが、ジャンプはBボタンだった。当時もジャンプが思い通りに出なかったりしたし、ある程度は遊びやすさを重視しているのだろう。

 本作では、登場する敵を殴って蹴って倒していくのだが、攻撃とは異なるものでオリジナル要素が存在する。それが、名刺交換だ。主人公のヤッタローはサラリーマンで、敵と組み合った瞬間に表示されるコマンドを連続で入力することで名刺交換が成功する。

Switch『ゲームセンターCX 有野の挑戦状 1+2』レビュー。番組企画モノに隠れた1980~90年代のゲームの進化を追体験させる意欲作であり、恐ろしいほどのこだわりが味わえる

 名刺が一定以上集まるとヤッタローが昇進(パワーアップ)して体力の上限がアップするので、どんどん名刺交換をしたいところ。また、名刺交換をした敵はすぐに去っていくため、敵の体力をゼロにする必要がなく、素早くバトルを終了させられるというメリットもある。

 一方、ボス敵などはある程度攻撃をして体力を削った状態にしないと名刺交換に持ち込めない。逆に言えば、ボス敵でさえも名刺交換ができるということでもあるので、ぜひ狙いたいところだ。

 ここまででも十分にレトロ風ゲームとして成立するような充実っぷりなのだが、この『炎の格闘サラリーマン ヤッタロー』はなんとマルチエンディングを採用している。エンディングが何種類あるのか、どういう分岐があるのか、というのは不明だが、最初に基本的なルートであろう道筋をたどっていくと、明らかに分岐のような選択が出てくるし、「あれなんだったんだろう?」と思うようなものも出てくる。あくまで予想だが、名刺交換による昇進なども条件に入りそうだ。

 先日、本作の開発者にインタビューをさせていただいたのだが、開発を担当したインディーズゼロの鈴井社長いわく、『ヤッタロー』は、「あれ?」と思ったものの多くに答えが用意されているとのこと。筆者は本記事を書くまでに3つのエンディングを見た状態だが、まだまだエンディングの分岐になりそうなネタが残っている。鈴井社長からは「それを知らずに終えるなんてとんでもない」といったネタもあると聞いているので、ぜひ最後まで遊びたいところだ。

番組ファン以外にも遊んでほしい

 『ヤッタロー』だけでもけっこうなボリュームがあるが、そのほかにもいろいろなジャンルのレトロ風ゲームが用意されており、各ゲームを遊ぶだけでなく、その進化の過程なども楽しめるのが本作の特徴。

 2023年にファミコンは40周年を迎えたが、あの時代からゲームは急激に進化している。なかでも、とくにファミコン、スーパーファミコンの時代は、進化の度合いが著しく、かつ、見た目(グラフィック)的にもわかりやすかった。

 当時を知らない人がいまあの時代のゲームを遊んでも、なかなか進化を体感しづらかったり、そもそもいま遊ぶには難しすぎたりするのだが、本作はそんなゲームが進化する体験の一端が簡単に味わえるものになっている。進化を知るために遊ぶ人は少ないと思うが、真面目な視点でなくとも、「どんどんゲームがキレイになっていく」、「同じゲーム名だったのに急にパワーアップしている」みたいな変化が、数年も待たずに体験できるのは十分におもしろい。

 『ゲームセンターCX』の番組を知っていればより楽しめるところはあるのだが、上に書いたように本作の魅力は、番組を知らなくても十分に味わえる。むしろ、番組を知らないからと敬遠していてはもったいない。ファミコン、スーパーファミコンの時代にゲームに夢中になった人はもちろん、最近インディーゲームで当時のオマージュゲームなどを遊んでいる人は、手にとってみてほしい。

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